ひどく悲しい映画を観ました。
映画のタイトルは『子宮に沈める』。
2013年製作の日本映画です。
始めに言っておきます。
『子宮に沈める』はとても後味の悪い映画です。
後味が悪いだけでなく、見終わった後にひどく落ち込みます。
しかし、映画を観た人に必ず何かを残してくれる映画です。
本作を怖いもの見たさで見る人もいるでしょう。
もちろん、それはそれで構いません。
しかし、実話を基にしたこの映画を本当に見て頂きたいのは、お子さんを持つ親の方です。
パパさんとママさんのどちらも、一度はこの映画を見て欲しいと思います。
育児に疲れている方、育児に疲れていない方、どちらにもおすすめです。
あなたは、この映画を観る前と観た後では、全く違う自分になっていることに気付くでしょう。
きっと、いつもよりも強く、自分の子供を尊く大切に感じているはずです。
そして、これまでよりも一層に深く、自分の子供を愛することができるようになっているでしょう。
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子宮に沈めるのあらすじ
「子宮に沈める」は、母親の役割を果たすという重責に耐えられなくなったシングルマザーが生活することに疲れ、とうとう自分の愛する2人の子供を見殺しにするまでの過程がリアルに描かれています。
彼女は、夫との離婚によって、仕事と家事、幼い子供2人の世話をたった独りですることになります。
しかし、夫と妻が揃っていても、2人の幼い子供を育てていくのはとても大変なことです。
彼女は、それらの営みに忙殺されることで次第に追い詰められていきます。
やがて、彼女は子供の面倒を見ることを放棄し、取り返しのつかない悲劇が起こってしまうのです。
「子宮に沈める」の元ネタは大阪二児放置死事件
映画『子宮に沈める』は、2010年に起こった「大阪二児放置死事件」、またの名は「大阪二児置き去り死事件」がモデルとなっています。
「大阪二児放置死事件」は、母親の育児放棄によって3歳の女児と1歳9か月の男児が餓死した事件です。
【ネタバレあり!】『子宮に沈める』と大阪二児放置死事件の違い
「大阪二児放置死事件」の詳細な内容については、他のサイトでも書かれているので割愛します。
ここでは『子宮に沈める』と「大阪二児放置死事件」の違いについて紹介します。
実は、映画と実際の事件では、かなり内容が異なっているんです。
映画では最初は良き妻、良き母親として描かれている
映画『子宮に沈める』は実際の事件とは違い、子供を死なせてしまった母親は、初めは良き妻・良き母親として描かれています。
映画の最初では、どこにでもいるだろう若い母親の彼女が、夫と子供のために手料理をつくり、きちんと家事をこなす様子が映し出されています。
そんな彼女は、仕事を口実に家に寄り付かなくなった夫と離婚することになり、シングルマザーとなっても、子供を引き取って自分ひとりでも何とか育てようとします。始めのうちは、就職口を探すために資格も取ろうとしていました。
しかし、あまり良くない友人に誘われるまま、彼女は水商売をやり始めることになります。
そして、どんどん子供の面倒を見なくなり、やがて男を家に連れ込むようになるのです。
離婚は父親ではなく母親の浮気が原因だった
映画「子宮に沈める」と「大阪二児放置死事件」では、そもそも離婚の原因が違っています。
実際の離婚の原因は、父親が家に寄り付かなくなったことが原因ではなく、母親の方の浮気が原因でした。
しかも、彼女の育児放棄は、離婚の直後から始まっていました。
(ただし、この母親についても幼少期に実の母親からネグレクトを受けるなど、家庭環境に重大な問題を抱えていました。その意味で、彼女もこの事件の被害者の一人であると言えるでしょう)
ちなみに、母子が事件現場となったマンションに引っ越すときには、すでに子供たちは満足に食事も与えられておらず、風呂にも入れてもらっていませんでした。
それだけではありません。
母親はファッションヘルスで働き、ホストクラブに嵌まり、しょっちゅう遊びに出かけていました。そんな彼女が自宅に戻るのは、子供にコンビニで買った食料を渡すためだったのです。
映画では、母親に置き去りにされた子供たちが粉ミルクを奪い合うように飲んだり、マヨネーズをそのまま口にしたりしながら飢えを凌ぐシーンが描かれています。
このシーンは、本作で最も切ないシーンの1つです。
そして、彼女の娘である幸ちゃんが、お母さんが帰ってくるんじゃないか、とずっと真夜中にドアの前に立って待っているシーンを見ると、辛くて涙が出てしまいます。。。
しかし実際の事件は更に残酷なものだった
「大阪二児放置死事件」の過酷さは、映画の更に上を行きます。
この事件の母親は、居間のドアをガムテープで開かないようにしていたので、子供たちはキッチンにも行けず、トイレにも行けない状態でした。
大阪府警の捜査員の話によれば、冷蔵庫には姉弟の指紋がたくさんついていて、二人は目につく調味料で飢えをしのぎ、冷蔵庫の霜まで舐めていたそうです。
それところか、互いの汗を舐め、おしっこを飲み、うんちを食べて、母親が一月から出していなかったゴミを漁って、その中にあった食べかすまで口にしていました。
姉はそれが原因で食中毒となり死亡し、弟はその毒素が含まれた姉のうんちを食べて、姉が死亡した、そのすぐあとに死亡したのです。
しかも、母親はそんな姉弟の遺体を見つけたものの、そのまま放置して外に遊びに行き、SNSに「楽しい」と書き込み、知人男性と夜景を見に出かけてホテルでセックスしていたのだとか。
この話を知って、なんてひどい母親だ! と憤慨する人もいるかもしれません。
しかし、この事件の責任をただ母親にだけ求めるのは間違っています。
なぜなら、この悲劇が起きた原因は、母親以外にも存在しているからです。
たとえば、母親の周囲の人々は、どうしてこんな悲劇が起こるまで異常に気付かなかったのでしょうか。
離婚した父親も、子供たちのことをもう少し気にかけてあげられなかったのでしょうか。
この映画も、母親を断罪することを目的に撮られたわけではありません。
もし仮に、この映画が母親のみを悪として断罪する映画だったなら、始めから母親を悪として描いていたはずです。
「大阪二児放置死事件」の母親も、母親は幼少期にネグレクトを受けるなど、家庭環境や周囲の環境に深刻な問題を抱えていました。
だからこそ、母親を責めて終わりにするのではなく、このような悲しい事件が起きてしまった原因を1つ1つ丁寧に解決していくことが大切なのです。
『子宮に沈める』のスタッフ・キャスト
監督 | 緒方貴臣 |
---|---|
キャスト | 伊澤恵美子 |
土屋希乃 | |
土屋瑛輝 | |
辰巳蒼生 | |
仁科百華 |
本作のキャストは、みな、それほど有名な人たちではありません。
しかし、あえて、有名な人たちをキャスティングしないからこそ出てくるリアリティがあります。
監督の緒方貴臣さんは本作以外だと、性的虐待を描いた「終わらない青」や人形しか愛せない男のラブストーリー「体温」、フェイクニュースの危険が描かれる「飢えたライオン」などの作品があり、どれも本作同様、観る人の心を強烈に抉ってくる映画たちですので、機会があれば紹介したいと思います。
『子宮に沈める』の感想・評価
ぼくは『子宮に沈める』を観て「これは、ぼくのことを描いた話だ」と思いました。
もちろん、ぼくは女性ではないし、母親でもありません。
こんな風に子供を放置したことも、されたこともありません。
ですが、それでも、この映画は、ぼくのことを語っている、と思ったのです。
なぜなら、ぼく自身も子供から逃げ出したくなったり、育児を放棄してしまいたくなったりしたことが何度もあるからです。
現在のぼくは子供が2人いて、父親として育児に参加しています。
幼い子供を育てる日々は、とても大変で目まぐるしいものです。
ましてや、子供のうちの1人が障害を抱えていれば、育児の難易度は倍以上になります。
いやだ、もう逃げたい……。
何で、自分ばかりこんな目に遭わないといけないんだろう……。
わがままばっかり言わないでくれ、ぼくだって大変なんだよ……!
「仕事で疲れているんだから、ぐっすり眠らせてよ」
「休日ぐらいは、自分の趣味に没頭させてよ」
「お願いだ、ちょっとだけでいいから静かにしてくれ! 頭が……心が、全然、休まらないんだよ!」
こんな風に思うだけでなく、恥ずかしながら、時にはそれを口に出してしまうことがあります。
正直に言うと、ぼくは、辛くて辛くて、どうしようもなくなってしまう時があるのです。
家族が寝静まると、暗い部屋の中で一人、膝を抱えて泣いてしまう夜もありました。
そんなぼくだからこそ、自分の心の中にも、育児を放棄したあの母親がいると思うのです。
「自分だけの時間が欲しい」
「自分だって幸せになる権利がある」
「他所の家庭は問題なく暮らしているのに、なんでウチばかりが…」
そう思ってしまうのって、そんなにおかしなことでしょうか?
『子宮に沈める』の母親だって、最初からあんな残酷な結末を望んでいたわけではありません。
始めは何とか子供を育てようと頑張っていた、どこにでもいる普通のお母さんだったのです。
だから、彼女を自分とは関係がない人間と切り離したりせずに、このように自問してみて欲しいのです。
もし、彼女のようにたった独りで、二人の幼い子供を育てることになってしまったら……?
誰からの力も借りれず、相談さえもできず、子供の面倒をたった独りで見ないといけなくなったとしたら……?
「大阪二児放置死事件」の母親は、夫はおらず、実家の家族も頼れず、児童扶養手当も子ども手当すらも受給していませんでした。
それは、どんなに絶望的な状況だったのか。
どんなに大変なことだったのか。
ぼくは、この事実を知った時、背筋に寒気が走りました。
仮に父親がいて、母親がいて、実家からも手伝ってもらえて、国からの手当をもらえたとしても、子どもを育てるのは大変です。
なのに、それを、誰からの支援も受けられずに、たった一人でやらないといけないなんて……。
これほど辛くて苦しい状況ってあるでしょうか?
もちろん、あの事件の母親がやったことは許されることではないでしょう。
どんな事情があったとしても、2人の幼い子供を死なせてしまったことは事実なのですから。
しかし、もし自分が彼女と同じ状況に置かれたら、彼女と同じことをしないと言い切れるでしょうか?
ぼくが今、2人の子供を無事に育てることが出来ているのは、単に運が良いだけです。
たまたま、しっかりした妻がいて、2人がかりで子育てができる環境だから、何とか育てられているだけです。
だからこそ、シングルマザーあるいはシングルファザーで子育てをしている方を、ぼくは本当に本当に尊敬します。
しみじみ思いますが、子供を育てることは非常に大変なことです。
ぼくは、子育てがこんなにも辛いものだなんて、夢にも思いませんでした。
こればっかりはもう、実際に子供を持ってみないと分からないと思います。
子供を育てるということは、子供を持ったことがない人が想像することもできないほどの犠牲を親に強いてくるのです。
ぼくは自分が親になって、そのことが始めて分かりました。
そして、ぼくのことを育てた両親の偉大さが痛いほどに身に染みて分かりました。
子供を持つ親は、子供を持たない人たちが当たり前のように享受する幸せを諦めねばなりません。
たとえば、
大好きな飲み会に参加する回数が減るでしょう。
仲の良い友だちと遊びに行く機会が減るでしょう。
あれほどハマっていた趣味に費やせる時間がなくなるでしょう。
叶えたい夢がある人は、その夢を実現するための努力をする時間を奪われます。
親になったら、子供がいない時に楽しんでいた何かを諦めなければいけません。
趣味も、食事も、恋愛も、夢さえも。
両立することは物理的に不可能なのです。
子供は可愛い。
子供は宝だ。
確かに、それは間違っていません。
しかし、そこには可愛いだけでは決して片づけられない困難があるのです。
『子宮に沈める』で子供を見殺しにした母親は、「子供の命」と「自分だけの幸せ」を秤にかけて「自分だけの幸せ」を選びました。
その一方で、多くの正常と呼ばれる親たちは「子供の命」を選ぶことができます。
それは一見当たり前なことかもしれませんが、ぼくは、とても凄いことだと感じるのです。
子供がいる親の皆さん。
あなたは、いつも必ず、子供を選ぶことができますか?
ぼくは自信がありません。
10000回中9999回は子供を選べても、もしかしたら最後の1回は「自分だけの幸せ」を選んでしまうかもしれない。
そんな身勝手なぼくだから、『子宮に沈める』の母親がやったことを責めることができないのです。
ぼくには、自分の生きがいを優先しようとする強烈なエゴがあります。
そして、それは、決して捨て去ることができないものなのです。
そのエゴを叶えることが、ぼくがぼくらしく幸せに生きていくために必要なことなのです。
現在のぼくは、そのエゴと子育てを両立させながら生きていけることを、とても幸せに思います。
ぼくがぼくでありながら、家族みんなが無事、健やかに生きていられることを感謝しています。
映画を見終わってもう何年も経ちますが、時々、この映画のラストシーンのことを思い出します。
子供の遺体を洗濯機に入れて蛆をとったり、幸ちゃんを溺死させたりした時、あの母親は何を想っていたのでしょうか。
『子宮に沈める』は、本当に辛い映画です。
しかし、この映画は、育児や自分の親としての在り方を見つめ直すきっかけになります。
そして、自分の身にも起こり得るかもしれない悲しい事件の追体験は、自分の子供への愛情を再確認させてくれるでしょう。
きっと、あなたは、この映画を観る前よりもずっと深く、深く、子供を愛せるようになっているはずです。
繰り返しになりますが、『子宮に沈める』は、子供を持つパパさんとママさんにおすすめの映画です。
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コメント
先ほど映画を観終わりました。執筆者さんの感想、すごく響きました。
私は夫があり子どもがいない30代女性です。そうなんですよね。。この映画の母親が最終的に行ったことは残酷で「人でなし」だと思うし、自分が同じことをするとは思えない、だけど私もわたしの映画だと思うところがありました。
子どもがいないので感覚的には本当にはわからないけれど、母親である前に彼女は若い女性であり人間。複数の条件が重なって、家庭の中で生存競争のようなもの(自分の欲望、自分らしく?生き残るために子どもを犠牲にする。自分が作ったのだから自分の手で終わらせてもかまわない。本来なら母性が勝ち自分が犠牲になるところなのでしょうか?)が起こってしまったのではないか…?と思いました。
単なる不幸が重なった、ではなく救われる条件を見つけたいですね。私も短時間ですが子どもにかかわる仕事をしていて…色々考えさせられました。
長文失礼しました。
私は子供を産んで2ヶ月で夫が突然死しました。
この映画を観て腹立たしくてたまりませんでした。
うちの子は22歳です。つまり夫が亡くなって22年経ちました。
女性が夫を若くして亡くしたからといって、母性が女の心が強いと言うのは違うと思います。
ドラマのマザーで男と女と母親という区別があるとあるセリフがありました。
私は母親です。
女が強いのかは子供を産む前に判断してから決めたらいかがでしょうか?
いまだに子供が可愛くて仕方ありません。
子供も勉強頑張って、私としては誇らしい限りです。
自分の意思で子供を作っておいて、何を被害者面してるんだ?